院長の「JoJoブログ」

田んぼ

2020-06-21 18:26:13投稿

30数年前のこの時期。
一人暮らしのアパートにいると、日が暮れるころから聞こえてくる、なんとなくリズミカルで、なんとなく気持ち悪い、ガーッ、ガーッ、という音が、日に日に強くなるのに気づいた。
暗くなると更にその音は響き渡る。何の音なんだろうと毎晩のように不思議になり、その正体が、カエルの大合唱であることが判明したのは、数日が経過してからだった。

小、中、高と広島市内の学校に通い、通学路は基本的に住宅街と商店街で、田んぼや畑というものは、どこか列車に乗って遠出するときに、車窓から見るものと思って育った私。近くの川も、昭和のその時代は、工場の廃液でヘドロだらけで、遊び場はもっぱら公園。線路沿いの草むらで虫取りをするくらいが、唯一の自然とのふれあいだったような気がする。当然、カエルなんてものを見ることはないし、なき声をきいても、カエルとわからないのは当然だった。
そんな私が、当時の共通一次の点数だけで受験し、合格してしまった山口大学に通うため、縁もゆかりもない山口市で一人暮らしを始めることになった。当時の吉田キャンパスの周囲は、ほぼ360度田んぼ。3階建てのアパートの部屋の窓からの景色は、ドーンと田んぼが続いている先に大学の建物という極めてシンプルなもの。当時の私は、第一志望だった都会の大学をあきらめ、仕方なく山大にしたという、都落ちの気もちでいっぱいだったので、このカエルの声に気づいた時の衝撃は、今でも忘れられない。

そんな私の、その後の人生といえば、広島で過ごした年月の2倍近くを山口県民として過ごしている。これまた縁もゆかりもなかった防府市民になって、今や20年。1年365日のうち、300日以上は、田んぼを目にする生活だ。
コロナ禍になってから、ジムで運動するのをあきらめ、可能な限り、自宅やクリニックの近所を一人でジョギングするようになった。以前は、佐波川の河川敷や、国道の舗道などを走っていたけれど、この春からは、できるだけ車の少ない、路地や農道を選んでいるので、田んぼのそばを走ることが多くなった。気が付くと行き止まりで、農家の庭先だったり、牛やヤギを見つけたり、完全に田舎モンになりきっている。6月に入ってからは、日没も遅くなったので、時間があるときは、クリニックの診療をおえてから、日没までの1時間程度を走るようにしている。
防府市の西の端、植松、西浦地区は、特に田んぼが多く、今はすべての田んぼで田植えが終わっているので、まさに、カエルの季節だ。大合唱の中、車も人もほとんど通らない農道を走っていると、だんだんと太陽が西に傾き、空が朱色に染まってくる。そして、田んぼの水面にその空の色が映し出される。
自分の走っている前後左右が田んぼ。
初めての気持ち。田んぼって美しいな・・・DSC_1600.JPG (6.54 MB)