院長の「JoJoブログ」
ブラックウェルに憧れて
2023-03-02 19:28:22投稿
医学部の同級生に薦められて「ブラックウェルに憧れて~4人の女性医師~」という小説を読んだ。
この本と出会うことで、アメリカで医師として認められた初めての女性、エリザベス・ブラックウェルについても知ることができ、ここ数年で読んだ本の中で、一番、胸が熱くなった本と言っていい。
著者の南杏子さんについても、初めてその存在を知ったのだけれど、現在も現役の内科医で、小説家でもある彼女は、30歳を過ぎてから医学部に入学されており、年齢は上だけれど、医師としては、私のほうが少し先輩になる。ただ、この小説の時代背景が自分の学生時代や研修医時代とかなり重なっており、小説という形をとってはいるけれど、私にとっては”あのころ、そうだったなぁ”というシーンの連続。
数年前に、医学部入試において、女子学生や多浪生に対する差別がスキャンダルになったことがきっかけで、この小説が書かれたそうだが、登場人物も言っているように、私自身、そのスキャンダルについては、”そんなの昔から当たり前だったし、今頃になって…”という気もちだった。
自分は、女性として、医師として、男社会の中で、今でいう、セクハラ、パワハラ、マタハラをどれだけ受けてきたのかと思うけれど、当時は、ハラスメントという用語は日本社会には存在しなかったし、自分自身も”なにくそ”という気持ちはあったにも関わらず、ハラスメントをうけているという自覚はなかったように思う。
産婦人科医として初めて赴任した一般病院で、手術室の更衣室は、「医師更衣室」と「看護婦更衣室」しかなく、どちらにも入れない私は、倉庫の横に、私専用の洋服屋さんの試着室のようなコーナーを作ってもらったのも、よい思い出と言えば、思い出。
この本を読んでいると、そんな”思い出”に近いシーンが次から次へと出てきて、目頭が熱くなることもしばしば。小説内で、「ガラスの天井」がこんなところにもあったんだという登場人物の気持ちだったり、大学教授を頂点とする医師の序列にため息をつくシーンだったり、女性医師にしか書けないストーリーに感動した。
令和になって、女性医師の数も、働き方も、私が医師になったばかりのころとは、かなりかわっているけれど、出生数が80万人をきり、少子高齢化が喫緊の課題となっているこの日本社会。
医師に限らず、すべての女性がやりがいのある職場で自信をもって働ける環境、安心して子どもを産み育てる環境が整うことは、全国民の願いだ。